犬の脾臓腫瘤について
犬の脾臓にできる腫瘤は、良性のものから悪性腫瘍(がん)まで多岐にわたり、ときに命に関わる重大な症状を引き起こすことがあります。
脾臓は赤血球の貯蔵や破壊、免疫細胞の生成など重要な働きを担う臓器であり、腫瘤が破裂して出血を起こすと緊急治療が必要となるケースも少なくありません。
本記事では、犬の脾臓腫瘤に関して「どのような疾患があるのか」「症状はどんなものが多いのか」「診断や治療方法はどのように進められるのか」を総合的に解説します。
目次
1. 犬の脾臓腫瘤とは何か
1-1. 脾臓の役割
■ 血液のろ過・貯蔵
赤血球の古くなったものを破壊し、必要に応じて血液を放出
■ 免疫機能
リンパ球やマクロファージなどの免疫細胞が集まる場所
1-2. 脾臓腫瘤の概要
脾臓にしこり(腫瘤)ができる原因は多様です。
血管肉腫(Hemangiosarcoma)や良性腫瘍(血腫や過形成など)、その他の腫瘍性疾患(リンパ腫や骨髄脂肪腫など)も含まれます。
■ 血管肉腫(Hemangiosarcoma)
犬の脾臓に発生する悪性腫瘍として代表的
破裂すると大量出血を伴い、急性にショック症状を起こすリスクが高い
血腫や過形成
良性の脾臓病変として比較的多く見られる
破裂による出血や疼痛のリスクはあるが、転移はない
腫瘤が良性か悪性かは、経過(増殖性)や画像診断(サイズや、形状)によって推測され、最終的には病理検査を通じて判断されます。
2. 臨床症状と観察ポイント
2-1. 無症状~突発的症状
脾臓は腹腔内の奥にあり、腫瘤が小さいうちは症状が出にくいことがあります。
しかし、腫瘤が大きくなると周囲を圧迫したり、破裂した場合は急性症状を引き起こすことがあります。
■ 初期は無症状が多い
定期健康診断のエコー検査で偶然見つかるケース
■ 破裂時の急性症状
虚脱、ふらつき、呼吸数増加、歯肉や舌が白くなる(貧血)など
2-2. 慢性的な経過
腫瘍が大きくなるに伴い、以下のような慢性的な症状が出ることもあります。
■ 元気消失・食欲減退
■ 腹部膨満(触ると固い塊を感じることも)
■ 軽度の貧血兆候(粘膜蒼白、運動を嫌がる など)
破裂や出血が起きるまでは症状が乏しい場合が多いため、飼い主が気づきにくい点が脾臓腫瘤の大きな特徴です。
3. 鑑別診断の重要性
犬の脾臓に腫瘤が見つかった場合、悪性腫瘍(血管肉腫など)なのか、良性疾患(血腫・過形成など)なのかを見極めることが非常に重要です。
さらに、他の臓器疾患や全身性の病気でも脾臓が腫大することがあります。例えば以下の病気が挙げられます。
■ リンパ腫(B細胞性/T細胞性)
脾臓のみならず肝臓やリンパ節が腫大することがある
■ 感染症
血液寄生虫などで脾臓が過形成を起こす可能性
■ 全身性の免疫疾患
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)などで脾臓が腫れるケースも
4. 診断の流れ
4-1. 視診・触診・身体検査
粘膜(歯肉や結膜)の色をチェックし、貧血の有無を判定
腹部触診で明らかな腫瘤が触れる場合もあるが、必ずしも触れられるとは限らない
4-2. 画像診断
■ X線検査(レントゲン)
腹部全体の輪郭や臓器シルエットの変化を確認
■ 超音波検査(エコー)
脾臓内の腫瘤の存在や大きさ、内部構造、出血の有無を詳細に評価
■ CT/MRI
より精密な評価が必要な場合や手術計画を立てる際に有用
4-3. 血液検査・凝固機能検査
■ 血算(CBC)
貧血の程度や白血球・血小板数の異常
■ 生化学検査
肝・腎機能、蛋白値、電解質バランスなどを確認
■ 凝固機能検査(PT、APTTなど)
手術や出血リスクの評価
4-4. 穿刺吸引細胞診・組織生検
脾臓腫瘤の直接の穿刺は、出血リスクが高いため慎重に検討されます。
多くの場合は摘出後の組織病理検査で確定診断を行うケースが多いです。
■ FNA(Fine Needle Aspiration)
出血や腫瘍播種のリスクを考慮し、慎重に行われる
■ 組織生検
外科的に脾臓を摘出したのち、病理医が腫瘤の性質を判定
5. 治療方針と管理法
5-1. 外科手術(脾臓摘出)
脾臓腫瘤の確定診断および治療として、脾臓全摘出術が選択されることが多いです。
■ メリット
腫瘤の破裂リスクを回避でき、病理検査で正確な診断が可能
■ デメリット
脾臓を失うことで免疫機能や血液の貯蔵機能に影響が出ることが稀にある。術後は細菌感染や循環の管理に注意。
5-2. 化学療法(抗がん剤)
悪性腫瘍(特に血管肉腫)の場合、手術後に化学療法を行うことで転移や再発を抑制し、生存期間を延長する可能性があります。
ドキソルビシンなどが代表的な薬剤
投与スケジュールや副作用を慎重にモニタリングする必要がある
5-3. 放射線治療
脾臓内部の病変に対して放射線治療を行うケースは多くありませんが、転移部位や局所再発の制御に用いられる場合があります。
5-4. 補助療法・緩和ケア
■ 疼痛管理
必要に応じて鎮痛剤を使用し、QOL向上を図る
■ 輸血や輸液
大量出血や貧血が認められる場合に対応
■ 炎症どめや止血剤
病変周囲の炎症や、出血を抑えるために使用することも
6. 飼い主様へのアドバイス
6-1. 定期健康診断の重要性
脾臓腫瘤は症状が出にくいため、年1~2回の定期検診(血液検査やエコー検査)が早期発見に有効です。
中高齢犬や大型犬は特にリスクあがってくるため、注意が必要です。
6-2. 破裂時の緊急対応
突然の虚脱や失神、呼吸困難、著しい元気消失が見られた場合は、すぐに動物病院へ
脾臓腫瘤が疑われている場合、突発的な大量出血を想定して休日や夜間に対応可能な病院を把握しておく
6-3. 術後・治療後の生活管理
■ 活動量・食事管理
手術後しばらくは安静を保ち、獣医師の指導のもとで徐々に運動量を回復させる
■ 再診・検査
再発や転移、貧血の再燃を早期に見つけるため、定期的な血液検査や画像検査が重要
■ ストレス軽減
闘病中は犬もストレスを感じやすくなるため、落ち着ける環境を整え、適度なスキンシップを行う
7. 予後と再発防止
7-1. 良性腫瘤の場合
血腫や過形成など良性病変の場合、腫瘤摘出後に再発や転移の可能性は低い
ただし、脾臓を失うデメリット(免疫や造血機能への影響)に注意しながら生活管理を行う
7-2. 血管肉腫など悪性腫瘍の場合
■ 転移率が高い
肝臓、肺、心臓に転移するケースが多い
■ 化学療法の併用
手術後の再発・転移を遅らせる手段として検討される
■ 予後
病理組織学的な進行度、手術時の状態、化学療法に対する反応などに左右され、個体差が非常に大きい
8. まとめ
犬の脾臓腫瘤は、良性から悪性までさまざまな原因が考えられ、ときに急性の大量出血を伴う危険性の高い疾患です。
定期的な健康診断や腹部超音波検査による早期発見が重要
悪性が疑われる場合は、脾臓摘出術を含めた総合的な治療(化学療法など)を検討
手術後は転移・再発の監視と、生活の質(QOL)を保つためのケアが欠かせません
万が一、腹部にしこりを感じたり、元気消失やショック症状を疑う場面があれば、早めに獣医師へ相談することで、愛犬のリスクを最小限に抑えることができます。
ぶんペットクリニック
愛知県岡崎市上和田町森崎45
当院は、岡崎市にある動物病院で、予防診療からセカンドオピニオンまで広く対応しております。
適切な診断と治療、丁寧なインフォームドコンセントを重要視して日々診療しております。
岡崎市周辺の方で、犬の脾臓腫瘤でお困りの際は、ぜひ当動物病院にご相談ください。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、犬の脾臓腫瘤に対する診断・治療を保証するものではありません。
症状や適切な対処法は個体差が大きいため、不安な点があれば必ず獣医師の診察・指示を仰いでください。
