🐾 犬猫の「肝臓の血液検査」を読み解く
— 臨床病理学的に見る「肝機能評価」と「肝臓への負荷評価」と治療の考え方—
肝臓は“代謝の司令塔”とも呼ばれ、解毒・栄養素貯蔵・胆汁生成など多彩な役割を担っています。
血液検査では (1) 肝臓が本来の仕事をこなせているか=肝機能の検査 と、(2) どれほどダメージや負荷を受けているか=肝臓への負荷の検査 を分けて考えると、病態の把握が格段にスムーズになります。
以下では臨床病理学の視点で代表的な項目を整理し、犬と猫での特徴差も交えて解説します。
目次
1. 肝機能をストレートに測る検査
| カテゴリ | 主な項目 | 病理学的背景・読み取りポイント |
|---|---|---|
| 合成能 | アルブミン(Alb) コレステロール(Cho) 凝固因子(PT, APTT, Fibrinogen) |
肝実質細胞で合成されるタンパク質。低Albは慢性肝不全・門脈体循環シャント・蛋白漏出性腸症でも低下。 凝固時間延長は急性壊死や重度線維化で目立つ。 |
| 解毒・排泄 | アンモニア(NH₃) 胆汁酸負荷試験(TBA) |
アンモニアは尿素回路が機能していれば速やかに代謝される。 高値は門脈シャント・重度肝不全で典型的。TBAは食前後で測定し、肝血流・胆汁排泄路・実質細胞の総合的能力を評価。 |
| 糖・窒素代謝 | グルコース(Glu) BUN |
肝臓は糖新生・尿素産生の中心。 低Glu+低BUNは重度肝障害の警告サイン。 |
臨床病理 Tips
猫はストレス高血糖を起こしやすく、単回Glu高値だけで機能低下は判断できない。
胆汁酸試験は“肝機能の総合点”であり、ALTやALPが正常でもTBA高値なら隠れシャントや初期線維化を疑う。
2. 肝臓への負荷・ダメージを示す検査(逸脱酵素 & 胆汁うっ滞マーカー)
2-1. 逸脱酵素:細胞障害の“リーク”を検知
| 項目 | 細胞内局在・半減期 | 犬 vs 猫の特徴 | 読み解きかた |
|---|---|---|---|
| ALT | 細胞質内/半減期 犬 ≈ 60 時間・猫 ≈ 6 時間 |
猫は急激に下降するため“正常化=治癒”とは限らない |
肝実質細胞の壊死・炎症で血中へ。 最大値は障害の広さを、下降速度は回復か壊死終息かを示唆。 |
| AST | ミトコンドリア+細胞質/半減期短 | 筋肉障害併発で上昇しやすい | ALTと並行上昇 → 重度壊死の可能性 ALT正常+AST↑ → 筋障害を疑う |
2-2. 胆汁うっ滞・誘導酵素:胆道系ストレスの指標
| 項目 | 産生刺激 | 犬 vs 猫の要点 | 読み解きかた |
|---|---|---|---|
| ALP | 胆汁うっ滞・ステロイド・骨成長 | 犬:ステロイド/クッシングで著増 猫:骨由来が少なく上がりにくい |
犬で高値=胆道系 or 内分泌性 猫でわずかな上昇でも胆管炎を疑う |
| GGT | 胆管上皮由来 | 猫:ALPより鋭敏(脂肪肝ではALPのみ↑) | GGT↑+ALP↑=閉塞性胆汁うっ滞 GGT正常でALP↑=猫の脂肪肝を示唆 |
|
総ビリルビン (T-Bil) |
代謝産物の排泄停滞 | 猫は溶血でなくても高値になりやすい | ビリルビン尿・黄疸の確認は必須 閉塞性疾患ではT-Bilが大幅上昇 |
臨床病理 Tips
ALT高値+ALP正常=実質細胞障害優位(例:薬物性肝炎、感染性肝炎)。
ALP/GGT高値+ALT軽度=胆汁うっ滞優位(例:胆管閉塞、胆嚢粘液嚢腫)。
犬のコルチコステロイド誘導ALPは“負荷”ではあっても必ずしも実質障害を伴わない。
3. 犬と猫で違いが出る代表的パターン
| 病態 | 犬での特徴 | 猫での特徴 |
|---|---|---|
| 急性毒物性肝炎 | ALT, ALPが急上昇 | ASTが感度高く上昇 |
| 胆嚢粘液嚢腫 | ALP↑↑・GGT↑・軽度ALT↑ | 猫では稀、代わりに胆管炎が多い |
| 脂肪肝(hepatic lipidosis) | ほぼ発生しない | ALP↑・GGT正常〜軽度↑・T-Bil↑が典型 |
| 門脈体循環シャント | 小型犬に多い/低Alb・低BUN・TBA↑↑・NH₃↑ | 先天性より後天性シャントが多い/ALT正常〜軽度↑でも機能マーカーは高度異常 |
4. 検査結果を臨床で活かすコツ
■ 機能マーカーと逸脱酵素をセットで評価
ALTだけで“治った”と判断しない。
TBAやAlbを必ず確認。
■ 経時測定が診断精度を上げる
半減期の短いALTやASTは48–72 hで動く。
折れ線グラフで見ると病勢が読める。
■ 画像診断・病理検査との三位一体
超音波で胆嚢泥があればALP/GGT高値の意味づけが明確に。
■ 犬猫差を意識
猫で“少しのALP上昇”は重大サイン。
犬で“ALPだけ高い”ときは投薬歴・ホルモンを確認。
5. 治療の原則 ~「障害を抑え、肝臓を長持ちさせる」ために~
臨床病理データで“負荷”が示された時点から、治療は 「障害進行のブレーキ」と「残存機能の延命」 に軸足を置きます。
| 介入カテゴリ | 目的 | 具体的アプローチ | 臨床病理で追う指標 |
|---|---|---|---|
| 栄養管理 | 代謝負担↓/再生促進 | 高品質タンパク(BCAA比⤴︎)・中鎖脂肪酸(MCT)主体、銅制限※ | Alb↑、BUN適正化、体重↑ |
| 抗酸化/抗線維化/肝臓保護 | 活性酸素抑制・線維化進行抑制 | SAMe、抗線維薬、ビタミンE、ウルソ(胆汁流出改善) | ALT↓が鈍い症例でもTBA↓・Alb↑を指標に継続 |
| 内科的胆汁排泄サポート | 胆汁うっ滞軽減 | ウルソ+低脂肪食、高線維食 | ALP・GGT↓、T-Bil安定 |
※銅関連性肝障害(ベドリントンテリアなど)では 銅制限食が適応
6. 肝機能不全に進行したら ~肝性脳症(HE)の集中的ケア~
機能マーカー(Alb↓・PT延長・NH₃↑)が示す“肝臓の処理能力低下”は、アンモニア・芳香族アミノ酸など神経毒性物質の蓄積を招き、肝性脳症へ移行します。
肝性脳症となると、重篤な神経症状(発作や、意識障害)を生ずるため、注意が必要です。
6-1 肝性脳症の治療方法
■ 毒素生成を減らす
高品質だが適量のタンパク/低アンモニア生成食(大豆・乳清・BCAA主体)
■ 腸管内毒素を排出
ラクツロース(腸内pH酸性化→NH₃をNH₄⁺へ固定し排泄)
■ 腸内細菌叢を整える
非吸収性抗菌薬(アモキシシリン、メトロニダゾールなど)
■ 誘因の除去
便秘・消化管出血・利尿過多・高タンパク食などを速やかに是正
7. まとめ ~検査値 → 早期介入 → 数値改善のループが肝臓を守る~
■ 機能マーカーで“肝臓の残り体力”を把握
■ 逸脱酵素・うっ滞マーカーで“今受けているダメージ”を察知
■ 早期治療で障害を抑え、残存機能を温存
■ 肝機能不全では肝性脳症の治療でQOLを維持
この循環を切らさず回し続けることが、愛犬・愛猫の「沈黙の臓器」を長く働かせるコツです。
疑問や数値の揺らぎを感じたら、遠慮なく主治医へ相談し、検査データを“治療の羅針盤”にしましょう。
また、臨床現場では、数値を単体で見るのではなく「機能 vs 負荷」「経時変化」「画像所見」と統合して判断することが、正確な診断と的確な治療戦略につながります。
主治医と綿密な連携をとり、検査や治療についてよく相談しながら、愛犬・愛猫の健康を守っていきましょう。
この記事が、肝臓疾患を持つ犬猫と、そのご家族にとって有用なものになれば幸いです。
ぶんペットクリニック
愛知県岡崎市上和田町森崎45
当院は、岡崎市にある動物病院で、予防診療からセカンドオピニオンまで広く対応しております。
適切な診断と治療、丁寧なインフォームドコンセントを重要視して日々診療しております。
岡崎市周辺の方で、犬猫の血液検査でお困りの際は、ぜひ当動物病院にご相談ください。
