薬の量がどんどん増えていくけれど、このままで大丈夫?アジソン病の治療を見直したセカンドオピニオン
目次
1. アジソン病の治療を見直したセカンドオピニオン
✔ 「アジソン病と診断されて、毎日薬を飲ませています」
✔ 「でも、ナトリウムの値がなかなか正常にならず、薬の量がどんどん増えてきました」
✔ 「このまま増やし続けて、本当に大丈夫なのでしょうか」
今回は、このようなお悩みで当院へ
セカンドオピニオンとして
来院されたワンちゃんの事例をご紹介します。
なお、
個人や動物が特定されないよう、
経過や数値の一部を変更しています。
2. 数か月前にアジソン病と診断
このワンちゃんは、
数か月前にアジソン病と診断され、
フロリネフという内服薬で治療を続けていました。
体調そのものは比較的安定していましたが、
血液検査ではナトリウムがなかなか
理想的な値まで上がりません。
そのたびにフロリネフの量が増え、
受診時には毎日かなりの量を
内服している状態でした。
さらに、別の治療方法としてDOCPという
注射薬についても説明を受けていました。
ただし、入手方法によっては費用が高く、
長期間続けることを考えると
負担も大きくなります。
飼い主さんから最初にいただいたご相談は、
✔ 「こちらの病院でDOCPを用意することはできますか?」
というものでした。
しかし、詳しくお話を伺うと、
一番不安に感じていたのは
注射薬の費用そのものでは
ありませんでした。
✔ 「薬の量がどんどん増えていくけれど、本当にこのままで大丈夫なのか」
ということでした。
3. そもそもアジソン病とは?
アジソン病は、
正式には「副腎皮質機能低下症」と
呼ばれる病気です。
腎臓の近くにある「副腎」という小さな臓器からは、
体の状態を保つために重要な
ホルモンが分泌されています。
アジソン病では、
そのホルモンが十分に作れなくなることで、
✔ 元気がなくなる
✔ 食欲が落ちる
✔ 嘔吐や下痢をする
✔ 体重が減る
✔ ふらつく
✔ 血液中のナトリウムが低くなる
✔ カリウムが高くなる
など、さまざまな症状が
みられることがあります。
重症化すると、「アジソンクリーゼ」と
呼ばれる緊急状態になることもあります。
一方で、必要なホルモンを適切に補うことができれば、
安定して生活していけることも多い病気です。
4. 飼い主さんが迷っていたこと
今回、飼い主さんが特に迷われていたのは、
✔ 「薬の量が増え続けていること」
でした。
薬が増えるたびに、
✔ 「この量をずっと飲ませて大丈夫なのか」
✔ 「今後さらに増えていくのではないか」
✔ 「薬が増えているということは、病気が悪化しているのではないか」
と不安を感じていました。
そして、もし現在の内服薬では十分に
コントロールできないのであれば、
次はDOCPという注射薬を使うことになります。
ただ、その治療には継続的な費用もかかります。
つまり、
✔ 「今の薬を増やし続けるのも不安」
✔ 「でも、高額な注射治療を長く続けるのも心配」
という状態でした。
5. 当院でまず確認したこと
今回のセカンドオピニオンでは、
✔ 「DOCPをどこで購入できるか」
を考える前に、
✔ そもそも今、このワンちゃんにDOCPが必要なのか
というところから整理することにしました。
これまでの検査結果や治療歴、
現在の体調を確認し、
✔ アジソン病という診断自体は妥当か
✔ 現在不足しているホルモンは何か
✔ フロリネフでどこまで補えているのか
✔ ナトリウムやカリウムはどの程度問題なのか
✔ 薬が増えている理由は何か
✔ 他に調整できる治療はないか
を一つずつ確認しました。
✔ 「ナトリウムが正常にならない=薬を増やす」だけではない
アジソン病では、
ナトリウムやカリウムなどの
電解質を適切に保つことがとても大切です。
そのため、
ナトリウムが低ければ薬の量を
調整することがあります。
ただし、
✔ 「ナトリウムが基準値に入らないから、とにかく薬を増やせばよい」
というほど単純ではありません。
検査値を見るときには、
✔ どの程度低いのか
✔ カリウムとのバランスはどうか
✔ 食欲はあるか
✔ 元気はあるか
✔ 嘔吐や下痢はないか
✔ 体重は維持できているか
など、実際の体調と合わせて
判断する必要があります。
今回のワンちゃんは、
少なくとも受診時には大きく体調を
崩している状態ではありませんでした。
そのため、検査値だけを見て
薬を増やし続けるのではなく、
現在の治療全体を見直すことにしました。
アジソン病では、補うホルモンが一つとは限りません
アジソン病では、大きく分けて2種類のホルモンが不足することがあります。
■ 一つは、ナトリウムやカリウムのバランスを調整する「ミネラルコルチコイド」。
■ もう一つは、食欲や元気、血圧、ストレスへの対応などに関わる「グルココルチコイド」です。
フロリネフは、ミネラルコルチコイド作用を持つ薬です。
一方で、症例によってはグルココルチコイドを別に補う必要があります。
今回も、
✔ 「フロリネフをさらに増やす」
という選択肢だけではなく、
✔ 不足しているホルモンを別の薬で補うことができないか
という観点から治療を再検討しました。
6. セカンドオピニオンで整理できたこと
今回、大きく整理できたのは、
✔ 「今の薬を増やし続けるか、DOCPに変更するか」
の二択ではないということでした。
DOCPは、アジソン病に対する
有効な治療選択肢の一つです。
しかし、すべてのワンちゃんが
必ずDOCPへ変更しなければ
ならないわけではありません。
現在の内服治療を見直したり、
不足しているホルモンを
別に補ったりすることで、
安定した状態を目指せる場合もあります。
また、治療の目標についても、
✔ 「検査値を完璧に正常化すること」
だけではなく、
✔ 元気に生活できている
✔ 食欲が維持できている
✔ 嘔吐や下痢がない
✔ 電解質が危険な状態にならない
✔ アジソンクリーゼを防げている
✔ ご家族が無理なく治療を続けられる
ということが大切だとお話ししました。
7. その後の選択
今回は、すぐにDOCPへ変更するのではなく、
まず現在のホルモン補充の
バランスを見直すことにしました。
これまで使用していた
フロリネフを継続しながら、
グルココルチコイドを補う目的で
プレドニゾロンを追加しました。
その後、食欲や元気などの体調を確認しながら、
ナトリウムやカリウムなどの
電解質も定期的に評価していきました。
すると、プレドニゾロンを
補充してから体調が改善しました。
これまで「フロリネフが足りないのではないか」
と考えて薬の量が増えていましたが、
経過からは、グルココルチコイドの補充が
十分ではなかったことも
体調不良に関係していた
可能性が高いと考えられました。
そして、
全身状態が安定したことで、
最終的にはフロリネフを
減量することもできました。
飼い主さんが最初に心配されていた、
✔ 「このまま薬の量がどんどん増えていくのではないか」
という問題についても、
結果的には薬を増やし続けるのではなく、
薬の役割を整理することで
治療全体をシンプルにする方向へ
進むことができました。
■ 意外にも、皮膚のかゆみも改善
このワンちゃんには、
以前から手足を中心とした
かゆみもありました。
これまではアトピー性皮膚炎などを疑い、
サイトポイントや
ステロイドなどによる
治療歴もありました。
今回、アジソン病の治療として
プレドニゾロンを適切に補充したところ、
全身状態の改善とともに、
かゆみも以前より減少しました。
もちろん、
かゆみにはアレルギーや
感染症などさまざまな原因があり、
✔ 「アジソン病だったからすべてのかゆみが起きていた」
と断定することはできません。
しかし今回の経過からは、
グルココルチコイドが十分に
補われていなかったことが、
全身状態だけでなく
皮膚症状にも影響していた
可能性が考えられました。
一見すると別々に見える症状でも、
全身のホルモンバランスを
整えることで一緒に改善することがあります。
8. 診察を通して一方向の考え方から離れられた
今回の診察で一番大きかったのは、
✔ 「ナトリウムが低いからフロリネフを増やす」
という一方向の考え方から離れられたことでした。
アジソン病では、
ミネラルコルチコイドと
グルココルチコイドという、
役割の異なるホルモンを考える必要があります。
そのため、
✔ フロリネフの量は適切なのか
✔ プレドニゾロンなどのグルココルチコイドは十分か
✔ 電解質だけでなく、食欲や元気はどうか
✔ 今ある症状を一つの病気でどこまで説明できるか
を改めて整理しました。
結果として、
プレドニゾロンを適切に補充することで
体調が改善し、最終的にはフロリネフを
減量することができました。
DOCPについても、
すぐに導入するのではなく、
内服治療を整理したうえで
必要性を再評価することができました。
9. この事例からお伝えしたいこと
今回、飼い主さんが最初に抱えていたのは、
✔ 「薬の量がどんどん増えていくけれど、本当にこのままで大丈夫なのか」
という不安でした。
そして、
✔ 「今の薬でうまくいかないなら、高額な注射治療に変更するしかないのではないか」
とも感じていました。
しかし、
実際に必要だったのは、
単純に薬を増やしたり、
別の高額な薬に変更したり
することではありませんでした。
今使っている薬が何を補っているのか、
別のホルモンが不足していないかを
一度整理することでした。
その結果、
✔ 体調が改善した
✔ フロリネフを減量できた
✔ かゆみも軽減した
✔ DOCPをすぐに導入せずに治療を継続できた
という経過につながりました。
慢性疾患では、
薬が増えること自体が間違いとは限りません。
ただ、
✔ 「なぜこの薬を使っているのか」
✔ 「なぜ増量しているのか」
✔ 「違う作用の薬を補う必要はないのか」
✔ 「今の体調に合った治療になっているのか」
を整理することはとても大切です。
セカンドオピニオンは、
前の治療を否定するためのものではありません。
治療が複雑になってきたときに、
一度すべてを並べ直し、
本当に必要な治療を考え直すためにも利用できます。
✔ 「薬がどんどん増えて不安」
✔ 「検査値がなかなか正常にならない」
✔ 「別の高額な治療を勧められたけれど、本当に必要なのか分からない」
✔ 「今の治療を一度整理したい」
そのような場合も、セカンドオピニオンを考えてよいタイミングです。
