ふらつきと斜頸、MRIしかない?
目次
1. 耳ダニの治療で改善した猫ちゃんのセカンドオピニオン
✔ 「歩くとふらつきます」
✔ 「ジャンプができなくなり、頭も左に傾いています」
✔ 「耳を診ても異常はないと言われ、これ以上調べるならMRIと言われました」
今回は、
このようなお悩みで当院へ
セカンドオピニオンとして来院された猫ちゃんの事例をご紹介します。
なお、
個人や動物が特定されないよう、
経過や数値の一部を変更しています。
2. 猫の「ふらつき」「頭の傾き」は何が原因?
猫が歩くときにふらついたり、
頭が片側に傾いたりする症状を
「前庭症状」と呼びます。
前庭とは、
体のバランスを保つための仕組みです。
前庭に異常が起こると、
✔ 頭が左右どちらかに傾く
✔ 歩くとふらつく
✔ まっすぐ歩けない
✔ ジャンプしづらくなる
✔ 転びやすくなる
✔ 眼球が揺れる
✔ 吐き気や食欲低下がみられる
といった症状が起こることがあります。
原因は一つではありません。
✔ 耳の奥にある中耳・内耳の炎症
✔ 特発性の前庭障害
✔ 感染症
✔ 炎症性疾患
✔ 腫瘍
✔ 脳の病気
など、さまざまな病気が考えられます。
そのため、
前庭症状があるからといって、
すぐに「脳の病気」と決まるわけではありません。
3. 突然ふらつき、ジャンプもできなくなった
この猫ちゃんは、
数日前から歩くときにふらつくようになりました。
それまで普通にできていたジャンプも難しくなり、
✔ 「耳をよくかく」
✔ 「頭を振る」
✔ 「頭が左側へ傾いている」
といった症状もみられていました。
前の動物病院で耳の中を
確認してもらいましたが、
明らかな炎症はないとの説明を受け、
ビタミン剤による治療が始まりました。
しかし、
症状は改善しませんでした。
飼い主さんから見ると、
最初より悪くなっているように
感じることもあれば、
普通に歩ける時間もありました。
特に、
急に方向を変えたり、
咄嗟に動いたりしたときに
ふらつきが目立っていました。
4. 飼い主さんが迷っていたこと
前の病院では、
✔ 「耳を診ても異常は見つからない」
✔ 「さらに詳しく調べるのであればMRI」
と説明を受けていました。
そこで飼い主さんは、
✔ 「本当にもうMRIしかないのか」
✔ 「耳を気にしているのは関係ないのか」
✔ 「同じような症状の猫が注射で良くなったと聞いたが、ほかに治療はないのか」
✔ 「MRIを受けずに様子を見るのは危険なのか」
と迷われていました。
また、
この猫ちゃんは非常に慎重な性格で、
食べ物に薬を混ぜても
気付いてしまうほど投薬が難しい子でした。
そのため、診断だけでなく、
✔ 「実際に続けられる治療なのか」
ということも大切なポイントでした。
5. 当院で確認したこと
当院では、
まず症状の経過を確認し、
✔ 「どのような前庭障害が疑われるのか」
✔ 「耳に原因となる異常がないか」
というところから改めて診察しました。
そのうえで
耳鏡検査や
耳垢の検査を
行ったところ、耳ダニが確認されました。
耳ダニは、
猫の外耳道に寄生する小さなダニです。
耳ダニがいると、
✔ 強いかゆみ
✔ 頭を振る
✔ 耳を頻繁にかく
✔ 黒っぽい耳垢が増える
✔ 外耳炎
などの症状がみられることがあります。
今回の猫ちゃんでみられていた
✔ 「耳をかく」
✔ 「頭を振る」
という症状については、
耳ダニによって説明できる可能性がありました。
6. 耳ダニでふらつくことはある?
耳ダニは主に外耳道に寄生するため、
耳ダニが見つかったからといって、
✔ 「今回のふらつきや斜頸も、すべて耳ダニが原因です」
とその場で断定することはできません。
一方で、
耳の炎症が強くなり、
中耳や内耳まで影響が及んだ場合には、
前庭症状につながる可能性があります。
そのため今回は、
✔ 「耳ダニという明らかな異常が見つかった」
✔ 「耳を気にする症状もある」
✔ 「前庭症状との関連も否定できない」
という点から、
まず耳ダニの治療を行い、
その治療に対して
✔ ふらつきや
✔ 斜頸が
どのように変化するかを確認する方針としました。
7. 治療に対する反応も、診断のヒントになる
病気を診断するときには、
検査結果だけを見るわけではありません。
治療を行ったあとに、
✔ 「症状が良くなるのか」
✔ 「変わらないのか」
✔ 「さらに悪化するのか」
という経過も、大切な診断材料になります。
今回の猫ちゃんでは、
すぐにMRIへ進むのではなく、
まず治療可能な耳ダニに対して治療を行い、
その反応を見ることにしました。
もちろん、
✔ 症状が急速に悪化する
✔ 立てなくなる
✔ けいれんが起こる
✔ 意識状態に変化が出る
✔ ほかの神経症状が増える
✔ 耳ダニの治療をしても改善しない
といった場合には、
MRIなどの画像検査を積極的に検討します。
「経過を見る」という選択は、
何もしないという意味ではありません。
どのような変化があれば
次の検査へ進むのかを決めたうえで、
治療反応を確認していくことが重要です。
8. 今回選択した治療
今回は、
耳ダニに対して駆虫薬による
治療を開始しました。
内服が非常に難しい猫ちゃんだったため、
ご自宅で無理なく続けられる方法として、
スポットタイプの予防・駆虫薬を使用しました。
耳の中についても定期的に確認し、
約2週間に1回の頻度で来院していただき、
必要に応じて耳の洗浄を行いました。
耳ダニは卵や成虫のライフサイクルがあるため、
一度の処置だけでなく、
一定期間継続して駆虫することが重要です。
今回は約4か月間、
予防・駆虫薬を継続しました。
その後、
耳ダニも斜頸も改善
治療を続けた結果、
耳ダニは確認されなくなりました。
そして、
治療経過とともに、
ふらつきや頭の傾きも徐々に改善していきました。
最終的には、
耳ダニは完治し、
斜頸もみられなくなりました。
今回の経過だけから、
すべての前庭症状が耳ダニだけによって
起こっていたと完全に証明することはできません。
しかし、
✔ 「耳ダニという異常が見つかった」
✔ 「その治療後に前庭症状も改善した」
という経過から、
耳の病変が症状に関与していた
可能性は十分に考えられました。
結果として、
MRI検査まで進まずに
症状の改善を確認することができました。
9. セカンドオピニオンで整理できたこと
今回の診察では、
✔ 「MRIを受けるか、何もしないか」
という二択ではないことを整理できました。
まず基本的な診察を改めて行うことで、
耳ダニという治療可能な異常が見つかりました。
そのうえで、
✔ 現在の症状は前庭障害として説明できること
✔ 前庭障害には耳由来のものと脳由来のものがあること
✔ 耳ダニが一つの原因候補になり得ること
✔ まず治療を行い、反応を確認するという選択肢があること
✔ 改善しない場合にはMRIを検討すること
を飼い主さんと共有しました。
このように、
最初からすべてを確定診断できなくても、
✔ 「まず何をするのか」
✔ 「その結果によって次にどうするのか」
を整理することはできます。
10. この事例からお伝えしたいこと
「原因が分からないので、次はMRIです」
と説明を受けると、
✔ 「MRIを受けるしかないのかな」
✔ 「全身麻酔が心配」
✔ 「費用も大きいし、もう少しほかにできることはないのかな」
と迷われる飼い主さんもいらっしゃいます。
もちろん、
MRIを早期に行ったほうがよいケースはあります。
症状が進行していたり、
脳の病気を疑う所見があったりする場合には、
詳しい画像検査を先延ばしにすべきではありません。
一方で今回のように、
✔ 基本的な身体検査を改めて行う
✔ 耳など症状と関連する部位を再確認する
✔ 治療可能な異常があれば、まず治療する
✔ 治療反応を診断材料として利用する
✔ 改善しなければ次の検査へ進む
という方法がとれることもあります。
セカンドオピニオンは、
「もっと検査を増やすため」に
受けるものではありません。
反対に、
検査をしないために
受けるものでもありません。
今の症状に対して、
本当に次に必要な検査や治療は
何なのかを整理することも、
セカンドオピニオンの大切な役割です。
✔ 「MRIを勧められたけれど迷っている」
✔ 「原因不明と言われた」
✔ 「もう少し基本的なところから確認してほしい」
✔ 「治療しながら経過を見ることはできないのか知りたい」
そのような場合も、一度別の獣医師の意見を聞いてみることは、一つの選択肢です。
