「結石?がん?それとも原因不明?」
目次
1. 血尿と排尿異常が続いた猫ちゃんのセカンドオピニオン
✔ 「膀胱に白い影があると言われました」
✔ 「尿路結石として治療が始まりましたが、本当に結石なのでしょうか」
✔ 「若いからがんではないと思うと言われましたが、完全には否定されていないようで不安です」
今回は、
血尿や排尿異常をきっかけに、
当院のセカンドオピニオンを受診された猫ちゃんの事例をご紹介します。
なお、
個人や動物が特定されないよう、
経過や数値の一部を変更しています。
2. 少量の血尿から始まった体調不良
猫ちゃんは、
数日前から少量の血尿がみられるようになりました。
最初は出血量が少なく、
本当に尿に血が混じっているのか分かりにくい状態でしたが、
動物病院を受診し、血尿と診断されました。
超音波検査では、
腎臓、膀胱、尿管などを確認してもらい、
膀胱内に白い影があると説明を受けました。
その影については、
✔ 「結石かもしれない」
✔ 「腫瘍の可能性も完全には否定できない」
✔ 「ただし、若いのでがんではないのではないか」
と説明され、尿路結石を想定した治療が開始されました。
しかし、
尿検査は実施されておらず、
飼い主さんは診断に確信を持てない状態でした。
3. 排尿ポーズをするのに、尿が出ない
その後、
猫ちゃんはトイレに入って排尿姿勢を取るものの、
尿が確認できない状態になりました。
下痢のような粗相や、
吐きそうな仕草、
元気が低下して見える日もありました。
再び動物病院を受診しましたが、
触診では大きな問題はないとされ、
抗菌薬や止血剤で様子を見る方針となりました。
一方で、
飼い主さんの中にはさまざまな疑問が残っていました。
✔ 「尿が出ていないように見えるが、本当に大丈夫なのか」
✔ 「結石なのか、がんなのか、膀胱炎なのかをはっきりさせたい」
✔ 「療法食は一生続ける必要があるのか」
✔ 「採尿が難しいと言われたが、病院で負担を少なく採尿できないのか」
猫ちゃんは非常に怖がりで、
病院では動けなくなってしまう性格だったため、
検査そのものが強いストレスになることも心配されていました。
4. 当院でまず確認したこと
当院では、
✔ これまでの症状
✔ 検査内容
✔ 投薬歴
✔ 排尿状況
✔ 生活環境
について詳しく確認しました。
そのうえで、
腹部超音波検査を行い、
腎臓や膀胱の状態を改めて評価しました。
膀胱内には、
一部にポリープのように見える構造物が確認されました。
ただし、
これが腫瘍性のポリープなのか、
膀胱炎によって生じた炎症性の変化や沈殿物なのかは、
この時点では断定できません。
そのため、
直ちに「がん」と判断するのではなく、
膀胱炎の治療後に形や大きさが変化するか、
経過を確認する必要があると考えました。
また、
飼い主さんに検査内容をご説明しながら、
超音波で膀胱を確認し、
安全に実施できると判断したうえで、
膀胱穿刺による採尿を行いました。
膀胱穿刺は、
超音波で膀胱を確認しながら細い針を使って尿を採取する方法です。
自然排尿で採取した尿よりも、
外陰部や被毛などからの細菌や汚れが混入しにくく、
尿の状態をより正確に評価しやすいという特徴があります。
今回は飼い主さんにもそばにいていただき、
猫ちゃんの負担をできる限り減らしながら検査を行いました。
5. 特発性膀胱炎という可能性
検査結果やこれまでの経過を総合すると、
この猫ちゃんでは、猫特発性膀胱炎の可能性が高いと考えられました。
猫特発性膀胱炎とは、
細菌感染や明らかな尿路結石、
腫瘍などの原因が特定できないにもかかわらず、
膀胱に炎症が起きる病気です。
「原因が分からない病気」と聞くと、不安になるかもしれません。
しかし、何も分からないという意味ではありません。
猫特発性膀胱炎では、
✔ 環境の変化
✔ 緊張
✔ 寒さ
✔ 生活リズムの変化
✔ ほかの猫との関係
✔ トイレ環境
など、さまざまなストレスが症状の発症や悪化に関係すると考えられています。
この猫ちゃんは、
もともと地域猫として生活しており、
比較的最近になって家の中で暮らし始めていました。
✔ 外で過ごす時間と室内で過ごす時間が変わったこと
✔ 寒さによって室内生活が増えたこと
✔ 通院そのもののストレス
など、複数の要因が重なった可能性がありました。
今回のセカンドオピニオンでは、
✔ 「原因がまったく分からない状態ではない」
✔ 「結石やがんだけを考えるのではなく、特発性膀胱炎によって現在の症状を説明できる可能性がある」
という点を飼い主さんと共有しました。
6. 膀胱の白い影はどう考えるのか
膀胱内に見つかったポリープ状の構造については、
今後も経過観察が必要です。
膀胱炎が続くと、
膀胱粘膜が腫れたり、
炎症による組織や沈殿物が塊のように見えたりすることがあります。
そのため、
一度の超音波検査だけで、
腫瘍か炎症性変化かを判断できない場合があります。
まずは膀胱炎に対する治療や環境対策を行い、
その後の超音波検査で
✔ 小さくなっているか
✔ 消失しているか
✔ 形が変化しているか
✔ 大きくなっていないか
を確認することが大切です。
治療後も同じ場所に明確な構造物が残る場合や、
大きくなる場合には、
追加の画像検査や組織検査を検討します。
7. セカンドオピニオンで整理できたこと
今回の診察では、
単に薬を追加するのではなく、
現状をいくつかの項目に分けて整理しました。
まず、尿がまったく出ない尿道閉塞を強く疑う状態ではないことを確認しました。
次に、尿路結石だけが症状の原因とは限らず、
特発性膀胱炎によって血尿や頻尿、
排尿時の違和感を説明できる可能性が高いことをお伝えしました。
また、
膀胱内の白い影については、
すぐに腫瘍と決めつける必要はない一方、
炎症が改善した後も経過観察が必要であることを共有しました。
そして、
猫特発性膀胱炎では、
薬や食事だけでなく、
ストレスを減らすための環境づくりが重要であることを説明しました。
8. 選択した治療と環境対策
治療では、
膀胱の痛みや炎症を和らげるための内服薬を使用しました。
また、
ストレス緩和を目的として、
ジルケーンやカーミングケアなどのサプリメントを取り入れることにしました。
食事については、
尿路結石への配慮だけでなく、
ストレスケアも考慮した療法食を選択肢としてご提案しました。
具体的には、
ロイヤルカナンのユリナリーS/O+CLTや、
ヒルズのc/dマルチケアコンフォートなどです。
療法食は、
必ずしもすべての猫ちゃんが
一生同じものを食べ続けなければならないわけではありません。
✔ 尿検査の結果
✔ 結石の有無
✔ 症状の再発頻度
✔ 食事の好み
などを確認しながら
その猫ちゃんに合った食事を選びます。
さらに、
ご自宅では次のような環境対策を検討していただきました。
✔ 静かに休める隠れ場所を増やす
✔ トイレを清潔に保ち、設置数や場所を見直す
✔ 水飲み場を複数設置する
✔ ウェットフードなどで水分摂取量を増やす
✔ 急激な生活環境の変化を避ける
✔ 遊びや食事の時間をできるだけ一定にする
✔ 外が見える場所や高い場所など、安心できる空間を用意する
特発性膀胱炎では、
目に見える一つの原因を取り除くだけではなく、
猫ちゃんが日常的に感じている負担を少しずつ減らしていくことが重要です。
9. 「診断がついていない」と感じたときに
今回の飼い主さんは、
複数の病名の可能性を伝えられたものの、
結局何を一番疑っているのか分からず、
不安を感じていました。
診療では、
最初から一つの病名に断定できないこともあります。
しかし、
診断が確定していない場合でも、
✔ 「現時点で最も可能性が高い病気は何か」
✔ 「可能性の低い病気は何か」
✔ 「今後どのような検査や経過観察が必要なのか」
✔ 「どのような症状が出たら緊急なのか」
を整理することはできます。
今回も、
膀胱内の構造物について完全な結論が出たわけではありません。
それでも、
特発性膀胱炎という可能性を軸に治療を始め、
膀胱内の変化を経過観察するという方針を立てることができました。
10. セカンドオピニオンは、病院を批判するためのものではありません
セカンドオピニオンは、
前の動物病院の診断や治療を否定するためのものではありません。
猫ちゃんの病気では、
一度の検査だけでは診断が確定しないこともあります。
時間の経過とともに症状や検査所見が変わり、
診断が明確になっていくケースもあります。
ただし、
✔ 「説明を聞いてもよく分からない」
✔ 「複数の病気を言われて、何を心配すればよいか分からない」
✔ 「検査を受けたいが、猫へのストレスが心配」
✔ 「今の治療を続けてよいか確認したい」
と感じた場合には、別の獣医師の意見を聞くことも大切な選択肢です。
別の視点から病状を整理することで、
診断が変わる場合もあれば、
現在の治療方針に納得して続けられる場合もあります。
セカンドオピニオンの目的は、
必ずしも新しい病名をつけることではありません。
飼い主さんが現在の状況を理解し、
納得して次の治療を選べるようにすることも、
大切な役割です。
診断や治療方針について迷っている場合は、
不安を抱えたままにせず、
気軽にご相談ください。
