犬の糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)について ― 岡崎市の動物病院から解説
目次
1. はじめに
「ぐったりして動かない」「水を飲んでも吐いてしまう」「息が荒くて匂いが甘い」
そんな症状が見られたら、糖尿病性ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis:DKA)の可能性があります。
これは糖尿病が進行・悪化したときに起こる命に関わる緊急疾患です。
血糖値が高いだけではなく、体の中の代謝バランスが崩れ、酸性に傾くことで全身に深刻な障害を及ぼします。
本記事では、犬の糖尿病性ケトアシドーシスについて、発症のメカニズム、症状、診断、治療、そして再発を防ぐための管理法を詳しく解説します。
2. 糖尿病性ケトアシドーシスとは?
糖尿病では、インスリンというホルモンの不足により、体が糖をうまく利用できません。
その結果、エネルギー不足になった体は「脂肪」を分解して代わりのエネルギー源にしようとします。
このとき、脂肪の分解によってできるのがケトン体です。
ケトン体は少量であれば問題ありませんが、過剰に作られると血液を酸性に傾け(アシドーシス)、臓器が正常に働かなくなります。
これが「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」です。
3. 発症の仕組み(病態)
■ インスリンの欠乏
- 細胞が糖を取り込めず、血糖値が上昇。
■ エネルギー不足
- 代替エネルギーとして脂肪が分解される。
■ ケトン体の過剰産生
- アセト酢酸・βヒドロキシ酪酸・アセトンが血中に蓄積。
■ 代謝性アシドーシスの発生
- 血液が酸性化し、意識障害・ショックに至る。
さらに、脱水・電解質異常・腎不全などを合併し、急速に悪化します。
4. 発症の引き金(トリガー)
✔ インスリン投与の中断や不適切な量
✔ 感染症(子宮蓄膿症、膵炎、尿路感染など)
✔ ストレス(手術・旅行・発情・炎症など)
✔ クッシング症候群など他のホルモン異常
糖尿病がコントロール不良のまま続いたり、別の疾患を併発したときに発症するケースが多いです。
5. 好発犬種・年齢
■ 好発犬種
- ミニチュア・シュナウザー
- トイ・プードル
- ビーグル
- サモエド
- 柴犬など
■ 年齢
- 中高齢犬(6〜12歳)
■ 性差
- 避妊していない雌犬に多い(発情ホルモンが血糖を上げるため)
6. 主な症状
糖尿病の初期段階と違い、短期間で急激に悪化するのが特徴です。
■ 代表的な症状
✔ 元気消失、ぐったりする
✔ 食欲廃絶
✔ 嘔吐、下痢
✔ 水を飲んでも吐く
✔ 脱水(皮膚をつまむと戻らない)
✔ 呼吸が速く、深くなる(努力性呼吸)
✔ 甘酸っぱいような口臭(アセトン臭)
✔ 体温低下
✔ けいれん、昏睡
これらの症状がある場合は、一刻も早く動物病院を受診する必要があります。
7. 診断方法
■ 身体検査
- 脱水、呼吸異常、低体温、意識レベルなどを確認。
■ 血糖値の測定
- 通常200mg/dL以上(多くは300〜600mg/dLを超える)。
■ 尿検査
- 尿中に糖(グルコース)とケトン体が同時に検出。
- これがDKAの代表的なサイン。
■ 血液検査
- pHの低下(代謝性アシドーシス)
- ナトリウム(Na)低下、カリウム(K)変動
- BUN・クレアチニン上昇(腎機能低下)
- 白血球増加(感染の可能性)
■ 画像検査(エコー・レントゲン)
- 子宮蓄膿症・膵炎・胆嚢炎など、誘発疾患の確認。
8. 治療方法
糖尿病性ケトアシドーシスは救急疾患です。
入院下での集中的な管理が必要となります。
■ 輸液療法(点滴)
- 脱水と電解質異常の是正が最優先。
- リンゲル液や生理食塩水を使用し、血流を安定させる。
■ インスリン療法
- 短時間作用型インスリンを少量ずつ静脈内投与
- 血糖を急激に下げすぎないように慎重に調整。
■ 電解質補正
- カリウム(K)は治療中に急激に低下するため、補正が必要。
- ナトリウムやリンも定期的に測定し調整。
■ 酸塩基バランスの改善
- アシドーシスが重度の場合、重炭酸ナトリウムを投与。
■ 原因疾患の治療
- 子宮蓄膿症:外科的手術(避妊手術)
- 膵炎や感染症:抗生物質・支持療法
■ 栄養サポート
- 嘔吐が治まったら、低脂肪・高繊維の糖コントロール食を少量から再開。
9. 回復後の管理
退院後も、再発防止のための厳密な糖尿病コントロールが必要です。
■ インスリン注射の継続
- 投与時間と量を一定にする。
- 忘れた場合は自己判断で倍量を打たない。
■ 食事療法
- 糖コントロール療法食を一定時間に与える。
- 間食・おやつは厳禁。
■ 定期検査
- 1〜2週間ごとに血糖カーブ測定。
- 状態が安定すれば1〜3か月おきに通院。
■ 感染予防と避妊手術
- 感染症やホルモン変動は再発の引き金に。
■ 家庭での観察ポイント
- 食欲、元気、排尿回数、水を飲む量。
- 低血糖のサイン(震え、ふらつき)があれば要注意。
10. 予後
✔ 早期に治療を始めれば、回復して再び安定した生活を送ることが可能です。
✔ ただし、発見が遅れると致死率が高く(30〜40%)、一刻の遅れが命取りになります。
✔ 回復後も再発リスクがあるため、飼い主の管理意識と定期的なフォローアップが不可欠です。
11. まとめ
糖尿病性ケトアシドーシスは、犬の糖尿病が悪化した最も危険な状態です。
✔ 短期間で命に関わる重症化を起こす
✔ インスリン不足と脱水・感染が主な原因
✔ 集中的な入院治療が必要
✔ 回復後も継続的な血糖管理が再発防止の鍵
岡崎市で「犬がぐったりして動かない」「水を飲んでも吐く」「甘い匂いの息がする」といった症状が見られた場合は、すぐに動物病院を受診してください。
ぶんペットクリニックでは、糖尿病および糖尿病性ケトアシドーシスの緊急治療・入院管理から、退院後の血糖コントロールまで一貫したサポートを行っています。
