犬の膵炎(すいえん)~見逃したくないサインと早期対応の重要性~
目次
1. 膵臓ってどんな臓器?
膵臓はお腹の奥にある細長い臓器で、
✔ 消化酵素を分泌し、食べ物の消化を助ける
✔ インスリンやグルカゴンなどホルモンを分泌し、血糖値を調整する
という二つの重要な役割を持っています。
この膵臓に炎症が起きる病気が「膵炎」です。
軽症から命に関わる重症例まで幅が広いため、早期発見・早期治療がカギとなります。
2. 犬の膵炎はなぜ起こる?
膵炎の原因は一つに絞れません。
複数の要因が絡み合って発症することが多いと考えられています。
■ 脂肪分の多い食事・おやつ
- 消化酵素が過剰に分泌され、膵臓自体を攻撃してしまう
■ 肥満
- 脂質代謝の異常や血流障害で膵臓に負担がかかる
■ 薬剤(副作用として報告あり)
- 一部の抗けいれん薬、抗菌薬、利尿薬など
■ 外傷・手術後・膵管閉塞
■ 内分泌疾患
- 副腎皮質機能亢進症、糖尿病、甲状腺機能低下症など
■ 特発性(原因不明)
- 多くの症例で特定できない
特に小型犬(ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリア、トイプードル)では発症リスクが高いとされます。
3. どんな症状が出るの?
膵炎は症状の幅が広く、「ちょっと元気がない」から「急死するほど重症」までさまざまです。
✔ 食欲不振(最も多い症状)
✔ 元気消失、ぐったり
✔ 嘔吐(繰り返すことも)
✔ 下痢、血便
✔ 腹痛(前かがみ姿勢、触られるのを嫌がる)
✔ 発熱
✔ 脱水(皮膚をつまんでも戻りが遅い)
重症になると
✔ 呼吸が荒い、ショック状態、意識低下
✔ 黄疸(肝臓や胆管への波及)
など命に関わるサインが現れます。
飼い主さんが気づくポイント
✔ 急に食べなくなった
✔ 吐き気が続く
✔ 触るとお腹を嫌がる
✔ なんとなくぐったり
これらが膵炎のサインかもしれません。
4. 診断はどうする?
膵炎は「これ一つで確定」という検査がなく、総合的に判断します。
1. 身体検査
- 腹部の圧痛、発熱、脱水の有無をチェック。
2. 血液検査
- 白血球増加、肝酵素上昇、血糖や脂質の異常などを確認。
特に犬膵特異的リパーゼ(Spec cPL)は有用。
高値であれば膵炎の可能性が高い。
3. 超音波検査
膵臓の腫大、周囲脂肪の炎症像、液体貯留を確認できる。
4. X線検査
膵臓自体は見にくいが、二次的変化(腸管ガス、腹水など)を確認。
5. その他
血液凝固検査や胆管系の評価、CT検査が必要な場合も。
5. 治療の基本
膵炎は原因にかかわらず 支持療法(体を支える治療)が中心 です。
膵臓を「休ませ」、合併症を防ぎます。
■ 絶食/食事管理
- 嘔吐が強ければ一時的に絶食
- ただし現在は「早期の低脂肪食再開」が推奨される場合も
■ 輸液療法(点滴)
- 脱水改善・血流維持・電解質補正
- 治療の柱
■ 鎮痛剤
- 腹痛が強く生活の質を著しく落とすため、適切に使用
■ 制吐剤(吐き気止め)
■ 抗生物質
- 膵炎自体は無菌性だが、重症例や二次感染が疑われる場合に使用
■ 血糖管理
- 糖尿病合併や高血糖時
■ 外科的治療
- 膿瘍や壊死、胆管閉塞を伴う場合に限られる
6. 食事の工夫
膵炎の回復や再発予防には 食事管理が非常に重要 です。
✔ 低脂肪食 - 膵臓への負担を減らす
✔ 高消化性の療法食を使用
✔ 少量頻回給餌(一度に大量を与えない)
✔ おやつ禁止(特に脂肪分の多いもの:チーズ、ジャーキー、揚げ物など)
食欲が戻らないときは強制給餌ではなく、嗜好性の高い療法食を工夫して与えるのがコツです。
7. 合併症と重症化
膵炎は全身に影響を及ぼします
■ 播種性血管内凝固(DIC)
■ 多臓器不全(腎不全、肝不全)
■ 糖尿病の発症や悪化
■ 慢性膵炎→膵外分泌不全(消化不良)
特に急性重症膵炎は致死率が高いため、入院管理が必要です。
8. 予後(よご)
■ 軽症〜中等症
適切な治療で数日〜1週間で回復することが多い
■ 重症例
命に関わることもあり、死亡率は30〜40%とされます
■ 慢性化
繰り返すと膵臓の働きが低下し、栄養不良や糖尿病につながる
9. ご家庭でできる予防・ケア
✔ 脂肪分の高い食べ物を与えない(人の食事は特にNG)
✔ 体重管理 - 肥満は大きなリスク
✔ 規則正しい食生活 - 急な食事変更や不規則な給餌は避ける
✔ 定期健診 - 血液検査や超音波で早期発見を
✔ 異変を感じたらすぐ受診 - 食欲不振・嘔吐・ぐったりは放置しない
10. 飼い主さんへのメッセージ
犬の膵炎は、日常のちょっとした油断(高脂肪の食べ物など)からも起こる病気です。
しかし、早期に治療すれば回復する可能性が高いのも事実。
「吐き気」「元気がない」「急に食べなくなった」などの小さな変化を見逃さず、早めに病院を受診してください。
再発予防には、療法食や体重管理など、ご家庭でのケアが非常に大切です。
愛犬が元気に過ごせる時間を長くするために、飼い主さんと獣医師が一緒に取り組むことが、この病気の最大の治療です。
