「外耳炎が原因?このまま治らない?」
目次
1. 顔面神経麻痺の原因と、MRIを受けるべきか整理したセカンドオピニオン
✔ 「突然、顔の左側が動かなくなりました」
✔ 「目を閉じられず、口から食べ物がこぼれます」
✔ 「耳の汚れが原因かもしれないと言われましたが、本当にそうなのでしょうか」
今回は、
顔面神経麻痺の原因や今後の検査について悩み、
当院へセカンドオピニオンに来院されたワンちゃんの事例をご紹介します。
なお、
個人や動物が特定されないよう、
経過や数値の一部を変更しています。
2. 顔面神経麻痺とは?
顔面神経麻痺とは、
顔の筋肉を動かす「顔面神経」の働きが低下することで、
顔の片側が動きにくくなる状態です。
犬では、
次のような症状がみられます。
✔ 片側のまばたきができない
✔ 口角が下がり、食べ物や水がこぼれる
✔ 耳や唇が動きにくくなる
✔ よだれが片側から出る
✔ 鼻や口の周囲が左右非対称に見える
まばたきができないと目が乾燥し、
角膜炎や角膜潰瘍を起こす可能性があります。
そのため、
原因の確認だけでなく、
目を保護するケアも重要です。
3. 突然、顔の左側が動かなくなった
このワンちゃんは、
ある日突然、
左側の顔が動きにくくなりました。
左目のまばたきができず、
食事をすると左側の口から食べ物がこぼれます。
さらに、
顔や頭が左側へ傾いているようにも見えました。
前の動物病院では、
耳の汚れや外耳炎が関係している可能性を考え、
内服薬と点耳薬による治療が行われました。
治療後、
症状は少し改善したように見えましたが、
まばたきの異常や食べこぼしは残っていました。
その後、
✔ 「これ以上できることはない」
✔ 「完全には治らないかもしれない」
と説明を受けたことで、
飼い主さんは強い不安を感じていました。
4. 飼い主さんが迷っていたこと
飼い主さんが知りたかったのは、
単に別の薬がないかということだけではありませんでした。
✔ 本当に外耳炎が原因なのか
✔ 耳が原因でなければ、脳の病気ではないのか
✔ MRIなどの詳しい検査を受けるべきか
✔ 検査をしなくても様子を見てよいのか
✔ 顔の麻痺は今後回復する可能性があるのか
✔ 自宅でどのようなケアが必要なのか
といった点を、
整理して理解したいと考えていました。
「治らないかもしれない」と言われても、
原因や選択肢が分からないままでは、
納得して経過を見ることは難しいものです。
5. 当院で確認したこと
当院では、まず
✔ 顔の動きやまばたき
✔ 眼球の位置
✔ 頭の傾き
✔ 歩き方
✔ 姿勢反応
などを確認する神経学的検査を行いました。
その結果、
左側の顔面神経麻痺があると考えられました。
また、
頭の傾きもみられたため、
平衡感覚を担当する
前庭系の異常が併発している可能性も考えました。
次に、
耳鏡を使って外耳道を確認しました。
耳の中には目立った汚れや強い炎症はなく、
少なくとも目で確認できる範囲では、
重度の外耳炎を示す所見はありませんでした。
ただし、
耳の入り口がきれいでも、
奥にある中耳や内耳の
異常を完全に否定できるわけではありません。
顔面神経は中耳の近くを通っているため、
中耳炎や内耳炎によって
顔面神経麻痺や頭の傾きが起こることもあります。
一方で、
犬の顔面神経麻痺には、
検査をしても原因が特定できない
「特発性顔面神経麻痺」も少なくありません。
そのほかにも、
✔ 炎症
✔ 感染症
✔ 外傷
✔ 腫瘍
✔ 脳の病気
など、さまざまな原因を考える必要があります。
6. レントゲン検査を行うべきか
飼い主さんとは、
中耳の状態を確認するための
レントゲン検査についても相談しました。
レントゲン検査では、
中耳の内部に液体がたまっていることを示す変化や、
骨の変化が確認できる場合があります。
ただし、
頭部の骨は複雑に重なって見えるため、
レントゲンだけでは中耳炎を十分に判断できないこともあります。
今回のワンちゃんでは、
✔ 外耳道に目立った汚れや炎症がない
✔ 全身状態は安定している
✔ 症状が発症時のピークより少し改善している
✔ レントゲン検査を行っても、最終的にMRIなどが必要になる可能性がある
という点をお伝えしました。
検査で得られる情報と、
検査による負担や費用を一緒に考え、
今回はレントゲン検査を行わないことになりました。
検査をしなかったのは
「調べる必要がない」
と判断したからではありません。
現時点で検査を急ぐ必要性がどの程度あるのか、
検査結果によって治療方針が
変わる可能性がどの程度あるのかを
考えたうえでの選択でした。
7. MRI検査で分かること
顔面神経麻痺の原因を
さらに詳しく調べる場合には、
MRI検査やCT検査が選択肢になります。
MRI検査では、
✔ 脳
✔ 神経
✔ 内耳周辺の軟部組織
などを詳しく評価できます。
一方、
CT検査は中耳の骨や
内部構造の評価に有用です。
ただし、
これらの検査には通常、
全身麻酔が必要です。
また、
検査を受けても原因が特定できず、
「特発性顔面神経麻痺」
と判断される場合もあります。
そのため、
✔ 症状が進行している
✔ 歩けない、転倒するなど前庭症状が強い
✔ 意識状態やほかの神経反応にも異常がある
✔ 耳の痛みや感染が強く疑われる
✔ 数週間経過しても改善がない
✔ 再発や悪化がみられる
といった場合には、
MRIやCTを積極的に検討します。
一方で、
全身状態が安定し、
症状が少しずつ改善している場合には、
経過観察も選択肢になります。
8. 「検査をしない」という選択にも根拠が必要
病気の原因を調べるためには、
検査を受けることが大切です。
しかし、
どのような場合でも、
できる検査をすべて直ちに行うことが
唯一の正解とは限りません。
診察では、
病気の原因を大きく、
✔ 変性疾患
✔ 先天性疾患
✔ 代謝・栄養性疾患
✔ 腫瘍
✔ 炎症・感染症
✔ 外傷・中毒
✔ 血管障害
などに分けて考えます。
これらの可能性を、
✔ 年齢
✔ 発症の仕方
✔ 症状の進み方
✔ 身体検査や神経学的検査の結果
から絞り込んでいきます。
今回のワンちゃんでは、
症状が急に現れたものの、
その後は悪化せず、
わずかながら改善傾向がみられていました。
そのため、
特発性顔面神経麻痺など、
経過とともに自然に改善する
可能性のある病態も考えられました。
もちろん、
経過観察によってすべての
重大な病気を完全に否定できるわけではありません。
だからこそ、
「どのような変化があれば検査に進むのか」
をあらかじめ決めておくことが重要です。
9. 自宅で必要になるケア
顔面神経麻痺では、
原因の検査と並行して、
合併症を防ぐためのケアが必要です。
■ 目の乾燥を防ぐ
まばたきができないと、
目の表面が乾燥します。
今回のワンちゃんは、
すでに眼軟膏で目を保護していました。
必要に応じて人工涙液や眼軟膏を使用し、
✔ 充血
✔ 目やに
✔ 目を痛がる様子
がないか確認します。
■ 食べこぼしによる皮膚炎を防ぐ
口角が動きにくいと、
フードや水が口の周囲に残りやすくなります。
食後は口元を優しく拭き、
濡れた状態が続かないようにします。
✔ 赤み
✔ 臭い
✔ ただれ
がある場合には、
皮膚炎の治療が必要になることがあります。
■ 食べやすい形に調整する
✔ 食器の高さや形を変更したり、
✔ 一度に与える量を少なくしたり
すると、食べやすくなることがあります。
症状が強い場合には、
✔ 柔らかい食事や、
✔ 口に入れやすい大きさのフード
も検討します。
■ MRI検査と経過観察のどちらを選ぶか
飼い主さんには、
MRI検査を受けるメリットと負担、
そして経過観察を選んだ場合の注意点をご説明しました。
そのうえで今回は、
すぐにMRI検査へ進むのではなく、
目や口周囲のケアを続けながら経過を見ることになりました。
経過観察中に症状が悪化した場合や、
ほかの神経症状が現れた場合には、
改めてMRI検査を検討する方針です。
約1か月後には、
まばたきの反応に
わずかな麻痺が残っていたものの、
食事や日常生活には問題がない程度まで回復しました。
完全に元どおりになったわけではありませんが、
生活の質を保ちながら過ごせる状態になりました。
10. この事例からお伝えしたいこと
セカンドオピニオンでは、
「もっと詳しい検査を受けるために別の病院へ行く」
と思われることがあります。
しかし、
実際には、
検査を受けるべきかどうかを
整理することも大切な目的の一つです。
身体検査や神経学的検査、
発症からの経過を確認することで、
✔ 現時点で最も考えやすい病気
✔ すぐに検査が必要な状態か
✔ 経過観察が可能な状態か
✔ どのような変化があれば検査に進むのか
✔ 自宅でどのようなケアが必要か
を整理できる場合があります。
検査をしないことは、
病気を放置することではありません。
検査によって得られる情報と、
麻酔や費用などの負担を比べ、
今すぐ行う必要があるのかを考えた結果、
経過観察を選ぶこともあります。
反対に、
進行性の症状やほかの神経異常がある場合には、
早めのMRI・CT検査が必要です。
大切なのは、
「検査をするか、しないか」
だけではなく、
その理由と、
次に判断する基準を飼い主さんと共有することです。
✔ 「原因が分からないと言われた」
✔ 「これ以上できることがないと言われたが、納得できない」
✔ 「詳しい検査を受けるべきか迷っている」
そのような場合も、セカンドオピニオンによって現在の状況と選択肢を整理できることがあります。
